読売新聞「古道のいま」に登場
読売新聞三重県版(2014年6月13日)の連載記事「古道のいま」に柏木白光が登場しました。記事では、熊野古道シリーズを制作するきっかけや作品づくりに対する想いが紹介されています。
古道のいま — 7 —
大地を感じ書巡礼
墨アート・柏木白光さん
日本最古の神社とされる熊野市有馬町の世界遺産「花の窟(いわや)」。神々の母イザナミノミコトがまつられた高さ45メートルのご神体の前で祝詞を上げ、素足になってひざを折り、筆を墨に浸す。
大分県中津市出身の女流書家柏木白光さん==写真==。墨や岩絵の具を使い、自然から伝わってくるメッセージを詩と絵で表現する「墨アート」で知られる。いにしえの自然と信仰が残る熊野古道に魅せられ、2009年6月から、紀伊半島の聖地を訪れる「書巡礼」を始めた。
花の窟には、秋の例大祭「お綱掛け神事」が行われる10月2日に、11年から3年連続で足を運び、「花祭り」と題した作品2点を書き上げた。イザナミノミコトが女神であることから、平安、鎌倉時代の歌人・西行と現代の女流歌人・小黒世茂の歌を組み合わせたという。
書家だった父の指導で5歳から書の道へ入った。1988年に全国規模の女流展でグランプリを受賞。90年台からはネパールやインド、米国など活躍の舞台を世界へ広げた。2007年に南米・ペルーの世界遺産「マチュピチュ遺跡」を訪れ、15〜16世紀に建設されたインカ文明の空中都市に感銘を受けた。
「日本にも世界遺産の熊野古道がある」。第1作に選んだのは、熊野那智大社のご神体「那智の滝」だった。滝拝所に初めて立ち、「迫り来るような滝の大きさに圧倒された」という。滝の水で墨を溶き、筆の代わりに束ねたワラを使って、滝の流れを表現した。
これまで、三重、奈良、和歌山など55か所で計78点を書き上げた。熊野古道伊勢路では、花の窟のほか、伊勢神宮や熊野速玉大社などを巡った。
「地域の歴史を調べて詩を作り、何度も何度も現地を訪れて、ようやく聖地にふさわしい作品を仕上げることができる」。一つひとつの制作にこれほど時間を費やしたことはない。
今年1月には東京・新宿の京王百貨店で、「天と地・熊野へ捧げる書巡礼」と題した展覧会を開催した。三重や和歌山などでも開催を検討している。
「紀伊半島の聖地に古代から残る自然崇拝と大地の息吹に力をもらった。でも、熊野にはまだ訪れていない場所がたくさんある」。今後もライフワークとして書巡礼を続けるつもりだ。(新良雅司)【読売新聞 2014年(平成26年)6月13日金曜日(三重県版)】